検証条件
『羅刹』がIntelのLGA 1366 プラットフォームでどのようなパフォーマンスを発揮するのか検証していきます。
検証に当たって利用した機材およびBIOS設定は以下の通りです。検証条件は『CPUクーラー検証レギュレーション for Intel LGA 1366』に準じていますので、利用した負荷テストなど、詳しくはそちらをご覧ください。
検証機材一覧
CPU |
(2.66GHz/L2 256KB×4/L3:8MB/TDP:130W)
|
---|---|
Motherboard |
|
メモリ |
DDR3-1333 2GB×3 (Micronチップ)
|
ビデオカード |
|
HDD |
|
電源 |
|
ケース |
無し (バラック組み)
|
OS |
|
グリス |
BIOS設定一覧
2.66GHz
3.20GHz
3.80GHz
BCLK × CPU倍率
133MHz×20
160MHz×20
190MHz×20
QPI Frequency
2400MHz (4800MT/s)
2880MHz (5760MT/s)
3420MHz (6840MT/s)
Uncore Frequency
3200MHz
3200MHz
3040MHz
CPU電圧
Auto
(0.92V・負荷時1.22V)+0.050V
(1.28V・負荷時1.26V)+0.200V
(1.44V・負荷時1.41V)
CPU PLL Voltage
1.80V
1.80V
1.85V
QPI電圧
1.37V
1.35V
1.40V
Hyper-Threading Technology
ON
ON
ON
Turbo Boost Technology
OFF
OFF
OFF
C1E & EIST
ON
OFF
OFF
メモリクロック
DDR3-1600
(133MHz×6)DDR3-1600
(160MHz×5)DDR3-1520
(190MHz×4)
メモリレイテンシ
CL9-9-9-24
CL9-9-9-24
CL9-9-9-24
メモリ電圧
1.65V
1.65V
1.65V
比較用には、過去に『羅刹』と同じポジションの製品として発売されていた『ANDY SAMURAI MASTER』と『KABUTO』を用意したほか、ロープロファイル向けとして発売されていた『ZIPANG 2』、併売されている『グランド鎌クロス』など、トップフロー型CPUクーラー4製品を用意しました。
今回は、これに『羅刹』と同じトライデント多層フィン構造を持つサイドフロー型CPUクーラー『夜叉』、未だ空冷トップクラスのパフォーマンスを誇るProlimatech『Megahalems』の2製品を加え、計7製品の冷却性能を比較しています。
Scythe 『KABUTO』Scythe定番トップフロー型CPUクーラーの二代目にして、『ANDY SAMURAI MASTER』の後継モデル。 |
Scythe 『ANDY SAMURAI MASTER』コストと性能のバランス、そしてファン交換による自由度の高さから人気を博したScythe定番トップフロー型CPUクーラー。 |
Scythe 『ZIPANG 2』Scytheローハイトトップフロー型CPUクーラーの二代目。120mm角ファンと140mm径(120mm角互換)ファンの取り付けに対応。 |
Scythe 『グランド鎌クロス』鎌クロスの後継に当たる大型トップフロー型CPUクーラー。先代とは違い性能・コストパフォーマンスともトップフロー型の最高峰。 |
Scythe 『夜叉』『羅刹』と同じくトライデント多層フィン構造を採用したScytheのサイドフロー型CPUクーラー。 |
Prolimatech 『Megahalems』新興メーカーProlimatechの第一弾製品にして、空冷CPUクーラー最高峰の冷却能力を持つハイエンドCPUクーラー。 |
『羅刹』のLGA 1366用リテンションは、サイズ独自規格のVTMSに対応したIntelソケット共用仕様のプッシュピンで、ドライバなどの工具を使わずにソケットに固定することができます。(写真撮り忘れたので後日更新します。スミマセン)
マザーボード表面側から取り付け可能なので、ケースによってはマザーボードをケースに収めた状態で取り付け作業を行うことも可能なことも少なくないプッシュピンタイプですが、『羅刹』の場合はプッシュピンの頭が放熱部の下に隠れるため、ケースに収めた状態での作業はやや難しいかと思います。
これに限らず、CPUクーラーを交換する際は安全と確実な固定のためにも、マザーボードをケースから外して作業することをお勧めします。
『Core i7 920』の定格動作クロックである2.66GHz動作時の検証結果です。なお、この条件では省電力機能を有効にしていますが、Turbo Boost機能は無効にしています。
ソフトウェア測定結果(HWMonitor 1.16)
実測結果(どこでも温度計2)
2.66GHz@1.21V設定で検証を行った結果、『羅刹』のCPU温度は、『ANDY SAMURAI MASTER』を若干上回るものの、『KABUTO』を若干下回る結果となっています。
『KABUTO』との比較では、最も低速で風量・風圧とも弱い『S-FLEX 800rpm』との組み合わせで3℃もリードされてしまっています。低速ファンとの組み合わせが得意な傾向がある『KABUTO』相手とはいえ、後継モデルにあたる『羅刹』が、先代モデルの『KABUTO』の後塵を拝しているのはちょっと驚きですね。
周辺冷却性能に関しては、取り付け方向の影響もあると思われますが、VRM温度が比較した製品に比べ優秀な結果を記録しています。チップセット温度に関しては『S-FLEX 800rpm』搭載時には『KABUTO』の後塵を拝するものの、『KAZE-JYUNI 1200rpm』以上のファンを組み合わせた際には逆転しています。
オリジナルファン搭載時の結果は、先代の二製品と比べるとファン自体が高速なこともあって先代の二製品を上回っています。その一方、140mm径というアドバンテージがあるとはいえ、同じトップフロー型CPUクーラーでファンの回転数も風量も下の『グランド鎌クロス』に2℃の差をつけられているのはちょっと気になるところです。
ただ、この条件自体ファンやヒートシンクのパフォーマンスによる温度差が付きにくい傾向にあるようで、サイドフロー型CPUクーラーを含め、それほど大差はついていませんね。
『Core i7 920』を3.2GHz@1.26V(+0.050V設定)にオーバークロックして動作させた際の冷却性能比較結果です。 この条件では、C1EやEISTと言った省電力機能はオフにしています。
ソフトウェア測定結果(HWMonitor 1.16)
実測結果(どこでも温度計2)
定格時に比べ発熱量が増したこの条件ですは、ここでも『羅刹』が『KABUTO』との差を一気に詰め、1℃差で負けた『KAZE-JYUNI 1200rpm』搭載時以外の条件では『KABUTO』よりも低い温度を記録しています。
OCで発熱量が増した事で真価を発揮し始めたように見える『羅刹』ですが、トップフロー型CPUクーラーの中では『ZIPANG 2』や『グランド鎌クロス』にはまだ及ばないという結果になっています。
周辺冷却に関しては、ある程度風量のあるファンとの組み合わせであることもありますが、『羅刹』の結果は比較製品の中でもかなりよい結果となっており、多くのパーツ・条件で最も低い温度を記録しています。
『KAZE-JYUNI 1200rpm』以上の風量があれば、周辺パーツに対するある程度の影響力を期待しても良さそうですね。
『Core i7 920』を3.8GHz@1.41V(+0.200V設定)にオーバークロックして動作させた際の冷却性能比較結果です。 この条件ではC1EやEISTと言った省電力機能はオフにしています。
ソフトウェア測定結果(HWMonitor 1.16)
実測結果(どこでも温度計2)
動作クロックは3.8GHzながら、1.4Vを超える電圧をくわえられていることもあって、この条件のCPU発熱量はかなり大きなものとなっています。
実際、初代定番トップフロー型CPUクーラーの『ANDY SAMURAI MASTER』は一切記録を残すことが出来ず、『KABUTO』も「KAZE-JYUNI 1900rpm」やそれ以下の風量しかないオリジナルファンでは記録を残せていません。『ZIPANG 2』のように、テストを完走できても温度表示がカンストしてしまうという状況が発生するほどです。
そんな中で、『羅刹』はしっかり結果を残しており、ヒートシンクのポテンシャルの高さを示す結果となっています。
トップフロー型で『羅刹』以外にまともな記録を残せているのは『グランド鎌クロス』のみで、こちらには一定の差を付けられてしまっていますが、2.66GHz時や3.2GHz時のパッとしない結果からすると、ようやく後継製品らしさを発揮した感じですね。
周辺冷却性能に関しては、『グランド鎌クロス』とほぼ互角の結果を記録しており、CPU冷却性能では及ばないサイドフロー型CPUクーラーに対しては、VRM温度やチップセット温度で優位性を確立していますね。
ただ、メモリの冷却に関してはサイドフロー型CPUクーラーもファンの吸気で冷却出来るため、『羅刹』や『グランド鎌クロス』より低い温度を記録している場合もあります。サイドフロー型CPUクーラーもファンの吸気を上手く使えば、ある程度周辺パーツの冷却をこなすこともできるといったところでしょうか。
ポテンシャルは先代モデルを圧倒。ただ、定番製品としての魅力は?
2.66GHz動作時や3.2GHz動作時の結果だけを見ると、「後継製品と呼ぶに値するのか?」と思わされてしまう『羅刹』でしたが、最後の3.8GHz動作時の結果でヒートシンクの持つ冷却能力の高さを示しましたね。
初代の『ANDY SAMURAI MASTER』は当然として、先代の『KABUTO』ですらまったく冷却能力が追いつかない状況でも、しっかり粘り切ったあたりは流石後継製品と言ったところですね。
ただ、結局定格に近い2.66GHz動作時や、ちょい盛りOCの3.2GHz動作時には先代モデルに対してしっかりとしたアドバンテージを示せていないのも確かで、OCはせずに静音志向でCPUクーラーを購入したいというユーザーに対しては『KABUTO』以上の魅力があるのか疑問です。
搭載ファンの回転数制御幅が広く、高発熱環境でもしっかり粘ってくれるポテンシャルの高さという売りはあるものの、旧モデルとなったことで非常に安い価格で販売されている『KABUTO』との間にはそれなりに価格差もついています。
さらに、同じトップフロー型の『グランド鎌クロス』に高発熱環境を含め、全ての条件で低いCPU温度を記録されており、今回の比較した製品の中でトップフロー型として最も低いCPU温度を記録した結果が一つも無いというのもポイントです。『グランド鎌クロス』は周辺パーツとの干渉対策もかなり考えられている製品なので、周辺パーツとの干渉が少ないと言った利点も無く、ちょっと分が悪い印象です。
今回の検証の結果をまとめてみると、『ANDY SAMURAI MASTER』や『KABUTO』の後継モデルとしての『羅刹』は、低速ファン搭載時や低発熱環境での性能向上が見られないものの、ヒートシンクのポテンシャルを大幅に向上させた正常進化モデルと言ったところですね。
一方、トップフロー型定番製品の座を受け継ぐ製品として『羅刹』を見た場合、『グランド鎌クロス』をパフォーマンスで上回れず、とくに優位性があるわけでもないため、些か物足りない感じがします。
決して悪くはないんだけど、積極的に選ぶ魅力があるかと問われると答え難い…。欲を言えば、もうワンランク上の冷却性能を実現して欲しかったというのが個人的な感想ですね。