定番トップフロー型CPUクーラーのポジションを受け継ぐ製品
Scytheの『羅刹』はトップフロー型のCPUクーラーで、これまでScytheの『ANDY SAMURAI MASTER』から『KABUTO』へと受け継がれていた、定番トップフロー型CPUクーラーのポジションを引き継ぐ製品です。
標準で付属するリテンションはScythe独自規格の改良版VTMSを採用しており、Intel LGA 775/1156/1366およびAMD Socket 754/939/940/AM2/AM2+/AM3への取り付けをサポートしています。
最近のサイズ製品の多くに同梱されている可変PWM制御対応の120mm角25mm厚ファンが同梱されており、別途ファンを購入しなくても利用することが可能となっています。
その他、『羅刹』のスペックは以下の通りです。
製品名 |
RASETSU (羅刹)
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型番 |
SCRT-1000
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形状 |
トップフロー型(空冷)
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本体寸法 |
130(D)×141(W)×130(H)mm (※ファン一基搭載時)
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ベース部寸法 |
50×48mm(実測)
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ヒートパイプ |
6mm径×6本
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放熱フィン数 |
52枚
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放熱フィン厚 |
0.3mm(実測)
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本体重量 |
730g(公式サイトより)
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対応ファン |
120mm角(リブ無し)×1基
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付属ファン |
120mm角25mm厚ファン×1基
電源プラグ:4pin(PWM制御対応)
ファンコントローラ搭載(PWM制御+ファンコン制御)
ファンコントローラ最大帯域時
回転数:740±25% ~ 1900rpm±10% rpm 風量:37.15 ~ 110.31CFM(最大) 騒音:23.0 ~ 37.0dBA
ファンコントローラ最小帯域時
回転数:470±30% ~ 1340rpm±10% rpm 風量:23.00 ~ 76.53CFM(最大) 騒音:7.05 ~ 27.3dBA |
ファン固定具 |
金属クリップ×2個(ファン1基分)
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対応TDP |
非公開
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対応ソケット |
Intel:LGA 775/1156/1366
AMD:Socket 754/939/940/AM2/AM2+/AM3
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固定方法 |
Intel:プッシュピン
AMD:クリップ式
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『羅刹』のリテンションは、IntelはLGA 775/1156/1366共用のプッシュピン、AMDはマザーボード標準のリテンションを利用するクリップ式が採用されています。
付属するリテンションが2種類しかないので、パッケージの内容はかなりシンプルですね。Intel用のプッシュピンは嫌う人が多いようですが、VTMSタイプのAMD用のリテンションは、もうひとつのScythe独自規格「4-Way Mounting」のAMD用リテンションよりは楽に取り付けられるかと思います。
余談ですが、CPUクーラーの検証ばかりやっている人間としては、バックプレート式より取り付けが単純なプッシュピンタイプは嫌いじゃ無かったりします。
独特な形状の放熱フィンを採用したトップフロー型CPUクーラー
『羅刹』の基本的な構造は、銅製のベース部で受け取った熱をベース部を貫通している6本のヒートパイプで放熱部に伝えるというものとなっています。放熱部には『夜叉』で採用されたものと同じT.M.L.F(トライデント多層フィン構造)のフィンが採用されており、特徴的な外観を形成しています。
放熱部が目を引きますが、『ANDY SAMURAI MASTER』や『KABUTO』など、従来のScythe製定番トップフロー型CPUクーラーではベースの片側からヒートパイプを放熱部に伸ばす形だったのに対し、『羅刹』ではベースの両端から伸ばしたヒートパイプを放熱部に接続する方法をとるなど、ヒートパイプの使い方も大きく変更されています。
『羅刹』の全高は25mm厚ファン搭載時で130mmとなっており、『KABUTO』の132mmより2mm低くなっています。…と言っても、干渉問題の多い160mm級のサイドフロー型CPUクーラーと違い、この高さでこの程度の差であれば、ほぼ同等と言って差し支えないですね。
ちなみに、初代である『ANDY SAMURAI MASTER』の全高は25mm厚ファン搭載時に128mmだったので、『羅刹』は初代と二代目のちょうど中間の高さということになりますね。
▲ Scythe『KABUTO』(右)との高さ比較
『羅刹』のベース面は、50mm×48mmで厚さ2mmの銅板にメッキを施して鏡面に仕上げたものとなっています。
ネジをベース面に置くと、先端までしっかり映り込む程度の鏡面になっていますが、先代の『KABUTO』の見事な鏡面仕上げと比較すると、表面の微細な凹凸の影響でやや曇っているように見えます。まぁ、この程度は特に気にしなくても良いと思われます。
ベース面自体はスケールを当てると若干凸面のようになっているものの、50×48mmと広いベース面のうちCPUに接する部分は40×40mm以下なので、気にするほど深刻な凸面という訳では無さそうです。
ベースとヒートパイプの接続部に関しては、ベース面側のフラットな板と、ヒートパイプに合わせて溝を彫った小型ヒートシンクで挟み、ろう付けを施すという仕上げになっています。先代の『KABUTO』はヒートパイプを挟み潰してろう付けした形でしたから、それよりは手の込んだ作りですね。
コストの割にはそう悪くない仕上げではありますが、個人的にはベース面側の板に溝を彫ってくれた方が良いような気もしますね。まぁ、こちらの方が確実かつコスト的にも有利なのでしょうけど。
『羅刹』の放熱部は2ブロックに分かれており、5種類のアルミフィン計52枚で構成されています。各ブロックの放熱フィン枚数は30枚と22枚となっており、形状の異なる放熱フィンを段違いに配置することで独特の形状を作り出しています。
記事冒頭でも触れましたが、Scytheではこの放熱部をT.M.L.F(トライデント多層フィン構造)と呼んでおり、ファンの風量を吸収させやすい構造であるとしています。この構造は、サイドフロー型CPUクーラーの『夜叉』でも採用されていますね。
放熱フィンとヒートパイプの接続にはろう付けが施されておらず、多くのCPUクーラーと同じように、放熱フィンにあけられた穴にヒートパイプを通して固定してあります。最近のScythe製品でヒートパイプと放熱フィンにろう付けを施している製品は見かけないので、ろう付け無しというのは特に珍しいことではないですね。
ちなみに、同じトライデント多層フィン構造を採用している『夜叉』と『羅刹』ですが、『夜叉』の方が一回り大きなフィンを採用しています。似てはいますが、共通部品という訳ではないようです。
『羅刹』には、最近のScythe製120mm角ファン対応CPUクーラーに採用されている可変PWM制御対応版KAZE-JYUNIが同梱されています。このファンは、通常のPWM制御に加え、ファンコントローラでPWM制御によって変動する回転数の範囲を調節可能というシロモノです。
標準ファンが同梱されているため、別途ファンを購入しなくても利用できるのですが、ファンコントローラが拡張スロットに固定する仕様となっているため、ケースの拡張スロット部分が空いてないと、ファンコントローラが邪魔になるという欠点があります。
ファンコントローラはファン本体に直結されており、基本的に取り外せない構造になっています。ファンコントローラを拡張スロット用のブラケットから外してどこか別の場所に固定するということもできなくはないですが、出来れば取り外し可能な仕様にして欲しいところです。
標準ファンが可変PWM制御で調節できる回転数の範囲はかなり広く、最小で470rpm、最大では1900rpmまで制御することが可能となっています。PWM制御の設定やファンコンを上手く使えば、別途ファンを用意しなくとも静音からOCまで幅広くカバーすることが出来そうです。
ファンの取り付けは金属製のクリップで行います。このクリップは、リブ無しタイプのファンであれば標準ファン以外も取り付け可能なので、標準ファンが気に食わない場合は市販のケースファンを取り付けることが可能となっています。
定番CPUクーラーの座を受け継ぐに値する実力はあるか
『ANDY SAMURAI MASTER』から『KABUTO』の時は放熱部の改良が中心でしたが、『羅刹』では放熱部だけでなく、そこに至るまでの熱輸送部分に手が加えられていますね。ベースでヒートパイプを挟みつぶすという接続を廃した点や、ベース部両端からヒートパイプを引き出して活用した点には良い印象を受けました。
これらの改良がどの程度パフォーマンスに影響を与えるのか、そして、『夜叉』でも採用されているトライデント多層フィン構造がトップフロー型でも良い結果をもたらすのかという点が、冷却性能検証でのポイントになりそうです。
『ANDY SAMURAI MASTER』以来、「価格と性能のバランスがよく、トップフロー型ゆえに周辺パーツへの影響力もあり、高さが低いためケースをあまり選ばない」ということで定番CPUクーラーとして評価されてきた製品の後継となる訳ですが、現在のScytheには同じトップフロー型で優れた性能と価格を両立した『グランド鎌クロス』という強力な製品が存在しています。
はたして『羅刹』は、先代モデルだけでなく、併売されている『グランド鎌クロス』に対しても一定の優位性を見せ、定番CPUクーラーと呼ばれるに相応しい結果を残せるのでしょうか。