一世を風靡した簡易水冷ユニットの上位モデル
Corsair『CWCH70』は、昨年一世を風靡した『CWCH50-1』の上位にあたるメンテナンスフリー簡易水冷ユニットです。ラジエーター厚の増加やデュアルファンの採用で冷却性能の強化を図ったモデルとなっており、簡易水冷と呼ばれるCPUクーラーの中でも冷却性能重視したことが見てとれる製品に仕上がっています。
『CWCH70』は標準でIntel LGA 775/1156/1366および、AMD Socket AM2/AM3系プラットフォームへの取り付けをサポートしています。固定方法は樹脂製バックプレートと金属リテンションを使ったネジ止めで、『CWCH50-1』と同じリテンションキットが採用されています。
その他、『CWCH70』の主なスペックは以下の通りです。
製品名 |
CWCH70
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形状 |
簡易水冷
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本体寸法 |
ラジエーター:50(D)×120(W)×150(H)mm
ウォーターブロック:70(D)×70(W)×29(H)mm
ウォーターチューブ:約225mm
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ヒートパイプ |
無し
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本体重量 |
735g(ファン重量抜き)
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対応ファン |
120mm角×2基
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付属ファン |
120mm角25mm厚ファン×2基
電源プラグ:3pin
回転数:2000 rpm 風量:61.2 CFM 2.3 mm-H2O 騒音:31.5 dBA
抵抗ケーブル使用時
回転数:1600 rpm 風量:50.35 CFM 1.8 mm-H2O 騒音:26 dBA |
ファン固定具 |
25mm厚ファン固定用インチネジ ×8本(ファン2基分)
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対応TDP |
非公開
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対応ソケット |
Intel:LGA 775/1156/1366
AMD:Socket AM2/AM2+/AM3
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固定方法 |
Intel:バックプレート+ネジ止め
AMD:バックプレート+ネジ止め
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『CWCH70』のリテンションキットは『CWCH50-1』で採用されたものと同じなので、『CWCH50-1』を使用中のユーザーはそのままリテンションを流用することも可能となっています。
乗り換えるだけの価値があるか否かは冷却性能検証を見てから判断して頂きたいと思いますが、既に乗り換えを決意されている方にとっては良い仕様と言えますね。
Corsair製簡易水冷ユニットの最上位
『CWCH70』の外観で目を引くのは、『CWCH50-1』比で2倍の厚みとなったラジエーターや、かなりコンパクトになったヘッドユニットですね。
ただ、個々のユニットの形状が目を引きはしますが、基本的には水枕がCPUから受け取った熱をクーラントでラジエーターに運搬し、放熱するという『CWCH50-1』と同じ構造となっており、目新しい技術が使われている訳ではありません。
『CWCH70』のヘッドユニットは、クーラント(冷却水)を循環させるためのポンプと、CPUから熱を受け取ってクーラントに熱を引き渡す水枕で構成されています。
『CWCH50-1』より随分薄型になりましたが、持っている機能としては同じと言う訳ですね。CoolIT『ECO-R』など、他の簡易水冷ユニットも薄型のヘッドユニットにポンプを内蔵しているので、それを考えると単に『CWCH50-1』のヘッドユニットが大き過ぎただけのような気もします。
ベース面…というより水枕部分は銅製となっており、リテールクーラーのように最初からグリスが塗布されています。
グリスを除去すると見えるベース面は非鏡面のヘアライン仕上げとなっています。気になる方もおられるかもしれませんが、平面は綺麗に出ているのでこの程度の加工痕は気にしなくても良いでしょう。
水枕を外してみないと正確なことは言えませんが、見た目的には『CWCH50-1』で採用されていた水枕と酷似しており、水枕自体は『CWCH50-1』と同じものが採用されている可能性がありそうです。
左:CWCH70 右:CWCH50-1
ちなみに何故『CWCH50-1』と異なり、ヘッドユニットが小型化されたかという点ですが、50mm厚のラジエーターに25mm厚のファンを2基取り付ける『CWCH70』の場合、これをケース背面の排気ファン取り付け箇所に固定するとヘッドユニットにかぶさる形になります。
そうなった場合、『CWCH50-1』で採用されていたヘッドユニットでは干渉して取り付けられないため、薄めのヘッドユニットに変更したということのようです。
ポンプの詳細はヘッドユニットを空けなければ分からないのですが、マザーボードのセンサー読みで言えば1400rpm前後で動作しているようです。この数値は『CWCH50-1』とほぼ同等ですね。
ポンプの動作音に関してですが、稼働中は『CWCH50-1』同様"ジー"という音が聞こえます。音の大きさに関しては『CWCH70』も『CWCH50-1』も大差ないように感じます。
いずれも『S-FLEX 800rpm』ほどの静音ファンで動作させた際には気になるものの、1200rpm以上のファンを使っていればさほど気にならない程度だと思います。耳障りな高音でも無いので気にならない方も少なくないと思いますが、徹底的に静音化を図る際には邪魔な要素になるでしょう。
なお、ヘッドユニットに内蔵されたポンプはファン用の3pinコネクタで電源を供給することになります。ラジエーターに使用するファンとは別途電源供給が必要になることと、ポンプに給電する際は電圧制御などで回転数を落とさないよう注意が必要です。
『CWCH70』のラジエーターには、『CWCH50-1』で採用されていた25mm厚のラジエーターの2倍となる50mm厚の120mmファン対応ラジエーターが採用されています。
ラジエーターの厚みが2倍に増えた事で、放熱面積自体もおおよそ2倍程度に増えた事になりますね。これにより、『CWCH50-1』で"ラジエーターの放熱能力がボトルネック"になっていた場面での性能向上は見込めそうですね。
左:CWCH70 右:CWCH50-1
左:CWCH70 右:CWCH50-1
左:CWCH70 右:CWCH50-1
『CWCH70』と『CWCH50-1』のラジエーターと並べると、パッと見では厚みが2倍になった事以外ほとんど同じように見えるのですが、よく見ると『CWCH50-1』が11本の水路を備えているのに対し、『CWCH70』では8本に減少しています。
水路が減れば放熱フィンと水路の接触面積が減る事になりますが、厚みが2倍になっているためこの水路の減少に関しては、ラジエーター全体で見れば必ずしもスペックダウンという訳ではありません。ただ、ラジエーターが2倍になり放熱能力が2倍になったとは言えないスペックではありますね。
ウォーターチューブには『CWCH50-1』と同じ低透過率カスタムプラスチック製のものが採用されています。
クーラント液がほとんど蒸発しないと言われるこの素材を採用していることは、Corsairの簡易水冷ユニットをクーラント液補充不要のメンテナンスフリー水冷たらしめている大きな要素です。ただ、この素材で作られたウォーターチューブはかなり硬いので、ケースによってはチューブの取り回しに苦労するかもしれません。
また、チューブ自体の長さも約280mmだった『CWCH50-1』より55mm程度短い約225mmに短縮されています。このチューブの短縮と硬さにより、ケース内である程度設置位置を選択することのできた『CWCH50-1』のような取り回しは難しい場合もありそうです。
『CWCH70』には標準で2基の120mm角25mm厚ファンが同梱されています。このファンは回転数2000rpm固定、PWM制御非対応の3pin電源仕様です。
分岐ケーブルと抵抗ケーブル
標準ファンは回転数2000rpm固定とかなり高速な120mm角ファンなのですが、同梱されている抵抗ケーブルを利用することで回転数を1600rpmに低下させることが可能です。 …まぁそれでも中~高速なので、動作音は静かとは言い難いですね。
ファンの電圧制御に対応しているマザーボードを使えばある程度回転数の制御は可能ですが、静音性を重視したいのであればファンの交換を検討するのも良いでしょう。
なお、2基のファンを1つの電源コネクタで利用できるよう、2股の分岐ケーブルが同梱されています。これを使えばポンプと合わせて2つのファン用3pinコネクタがあれば『CWCH70』を利用することが可能になります。
ファンの固定は同梱されているインチネジ(#6-32)を利用します。このネジを使えば25mm厚の120mm角ファンであれば固定が可能で、長めのインチネジを用意できれば38mm厚ファンの取り付けも可能です。
ファンの取り付け方向は『CWCH50-1』と同じくケース外吸気(=ケース内排気)が推奨されています。この方向でケース背面に取り付けるのであれば、上面排気ファンを備えたケースを用いるなど、エアフローの工夫が必要になりますね。
見た目の印象は強いものの、本当にスペックアップしたのは…?
『CWCH70』は、Corsairが自社のラボで行った検証で、Core i7 920 3.8GHz@1.34Vに搭載した場合『CWCH50』より13.3℃も冷えるという結果を記録したとされています。
標準でデュアルファンや2倍になったラジエーターを見ていると、そんな数字もあり得そうな気がするのですが、ユニット自体はラジエーター厚が倍増した事くらいしかスペックアップした部分が目視で確認できないというのはちょっと気になりますね。
ラジエーターに関しても純粋に2倍の放熱面積を得たとは言い難いですし、ウォーターチューブが短縮されたぶん、クーラント液の量はラジエーターの容量が増えたのと同じか、それ以上に減少しているはずです。そのうえで見た目通り水枕が『CWCH50-1』と共通だったとしたら、ユニット自体の性能向上はさほど大きくないのでは?という疑問が浮かぶところです。
件のCorsairラボの検証結果に関しても、「標準ファンを使ってリア吸気で設置した状態」での比較であるとされており、これが1700rpmファン1基の『CWCH50』と2000rpmファン2基の『CWCH70』を比較したということであれば、13.3℃という温度差はユニット自体の性能向上分とは言えなくなってきます。
『CWCH70』にはこのような疑問を吹き飛ばし、『CWCH50-1』や空冷CPUクーラーなどから乗り換えるだけの価値があるのか。次の冷却性能検証ではその点を検証していきたいと思います。
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